こだわりの酒造りはお米作りから。 減反廃止で活気づく契約栽培・自社栽培の動き③

減反政策が続いた約50年の間に米作農家は8割も減ったが、2014年産から酒米が減反の枠外で生産可能になって以来、自ら農業に参入して酒米栽培に取り組む酒の造り手が増えてきた。今回はシリーズの締めとして、酒米の自社栽培の動きにスポットを当ててみたい。

 

佳い酒は良いお米から、良いお米は善い水田から

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“山田錦”のような人気の酒造好適米を既存ルートで調達する場合、品種と等級は指定できても水田までは選べず、複数の水田で穫れたものがブレンドされることになる。ただ、水田によっては大粒化と多収量を目指す余り、肥料や水を過剰に与えたり、苗を植える間隔を狭くし過ぎた結果理想の品質からズレてくるなど、酒の造り手が望む米作りとは程遠い現場も少なくない。

そこで、佳い酒を造るために良いお米作りにもこだわりたいとの想いで、ほぼ同じ時期からそれぞれ30年以上にわたって、自社田での栽培に取り組んできた蔵元がいる。大阪の秋鹿酒造と、岡山の丸本酒造である。

秋鹿酒造は、6代目当主が1985年から自社所有の水田で“山田錦”の栽培に取り組み、試行錯誤の末3年越しで収穫にこぎ着けたところから、自社栽培米での酒造りをスタートさせた。2012年からは、自社田の全てをもみ殻や酒粕等を使った循環型の無農薬栽培に切り替え、将来的には全ての酒を自社栽培米で造る純米シャトーを目指している。

 

特区認定や規制緩和が追い風となって自社栽培が拡大

一方の丸本酒造は1987年に“山田錦”の自社栽培をスタート。しばらくは蔵主が個人名義で借りた土地で栽培を続けたが、2003年に地元の鴨方町が全国初の酒米農業特区に認定され、酒造会社が直接原料米を栽培できるようになったことで農業に本格参入。現在では年間で使う約1500俵の酒米の1/3を自社米で賄っている。有機栽培にも積極的で、有機JAS、NOP認証(米国統一オーガニック基準)、EUの認証を日本酒業界で初めて取得している。

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また、両社より10年程スタートは後になるものの、自社栽培米にこだわった酒造りに20年以上取り組んでいる蔵元もいる。神奈川の泉橋酒造である。
1995年の食管法廃止を機に“山田錦”の自社栽培を始めたものの、神奈川は酒処でも米処でもないため当初は全く売りにつながらなかった。しかし2003年に酒販免許の規制が撤廃され、コンビニやスーパーが酒を売り始めたことで風向きが一変。差別化のため地酒に力を入れ始めた一部酒販店が、お米作りからこだわる泉橋酒造のポリシーを評価し始め、口コミで販路が広がっていったのである。現在では海外出荷も増え、「テロワールを体現した日本酒」として、フランスの星付きレストランからも引き合いが来る程の高い評判を呼んでいる。

 

従来の枠組みを超えた自社栽培へのチャレンジ

他にも2003年から自社栽培を始め、農業法人を設立して今では73枚の水田を所有する新潟の渡辺酒造店や、同じく農業法人を2007年に立ち上げ循環型の無農薬栽培に取り組む福島の大和川酒造店、地元生まれの酒米“一本〆”にこだわって全量自家栽培している新潟の恩田酒造など、独自のポリシーに基づき長く取り組んできた蔵元は少なくない。

一方で2014年前後から本格的な自家栽培に挑み始めた蔵元には、耕作放棄地の再生を含めた農業の新たな担い手としての期待もかかる。例えば灘の大手・白鶴酒造は2015年に農業法人を設立。自社栽培を本格化することで酒造労働者の通年雇用を促すと共に、高齢化が進む農家の代わりに水田の維持確保に寄与してCSRに結びつけている。

そして自社栽培米での酒造りに挑むのは蔵元に限らない。イオンは2015年、大手小売では初めて農地バンクを活用してお米の生産に参入。埼玉の直営農場で栽培した酒米を原料に、広島等の蔵元に委託して日本酒を商品化した。今後日本酒の輸出が順調に拡大していけば、こうした新たな参入者も増えるだろう。

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減反廃止で活気づく酒米の契約栽培、自社栽培の動きを3回にわたってご紹介したが、農業特区制度の利用やファンド立ち上げによる自社栽培資金の募集など、新たな仕組みと発想を活かした酒米づくりはますます広がっている。酒米作りのこうした新たな動きが、日本の米作農業全体を元気にするムーブメントにつながることを期待したい。

 

参考サイト:

朝日新聞デジタル(秋鹿酒造)

http://www.asahi.com/kansai/taberu/jimotosake/OSK201004130049.html

日本酒と酒器のサイエンス
http://sake.science/秋鹿酒造有限会社/

丸本酒造
http://www.chikurin.jp/rice-cropping.html

SAKETIMES(丸本酒造)

https://jp.sake-times.com/special/report/sake_g_marumoto_cultivation

広報えびな2013年7月1日号(泉橋酒造)
http://www.city.ebina.kanagawa.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/004/660/10-11.pdf

Forbes JAPAN(泉橋酒造) 

https://forbesjapan.com/articles/detail/20028

新潟県酒造組合(根知男山)
http://www.niigata-sake.or.jp/interview/k79.html

日本経済新聞 電子版(白鶴ファーム)
https://www.nikkei.com/article/DGXLASJB27H3I_X20C15A2LDA000/

日本経済新聞 電子版(イオンの自社栽培)
https://www.nikkei.com/article/DGXLZO98238240Z00C16A3TI5000/

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