なぜお米からフルーティーな日本酒が造れるのか?  お米の香りを引き出す酵母の知識

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「お米はどんな香りがしますか?」と尋ねられたら、多くの人は炊きたてのご飯の香りを思い浮かべるだろう。その香りはほのかな甘さこそ感じさせるが、フルーツを思わせる要素は全くない。しかし吟醸酒好きならよくご存知のように、グラスからはなぜかリンゴやバナナ、メロン、巨峰、白桃のようなフルーティーな香りを確かに感じとることができる。果実生まれのワインならともかく、お米生まれの日本酒から果実の香りがするのは、よくよく考えると不思議な話ではないだろうか。ということで今回は、お米からフルーティーな香りを引き出す立役者=「酵母」について簡単にご紹介しよう。

 
フルーツと同じ香り成分が酵母の発酵によって生み出される 

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酵母は肉眼で見えない単細胞の菌類で、土や水の中、植物の葉・花・果実の表面、哺乳類・鳥類の皮膚や消化管などあらゆる場所に生息している。熟したぶどうの皮にも酵母がいるので、ぶどうを丸ごとつぶして容器に入れ、適度な温度に保てばワインができあがる。酵母がぶどうの中の糖類を利用してアルコール発酵するためである。

そして日本酒造りでも、元々は酒蔵内の壁や天井に生息していた酵母を醪(もろみ)に取り込み、自然発酵させる形で酒が造られていた。今でも一部で天然の蔵付き酵母にこだわった酒造りを続ける蔵元もある。ただ多くの蔵は失敗のリスクを避けるため、専門機関によって人工分離・培養された酵母を使っている。

そして吟醸酒特有のフルーティーな香りは、これらの酵母から生まれる。酵母は醪の中の糖分からエチルアルコールと炭酸ガスを生成するが、その中のカプロン酸エチル、酢酸イソアミルなどの成分がリンゴやメロンの香り成分と同じであり、このため吟醸香はフルーティーと言われるのである。

 

百花繚乱の酵母たちが蔵ごとの個性豊かな味と香りを創り出す

人工分離・培養された日本酒造りの酵母には、大きく3つのグループがある。一つ目は、最もポピュラーな「協会酵母」。日本醸造協会によって頒布されており、日本酒のラベルの酵母欄に「協会7号」「協会9号」などと書かれているものが該当する。二つ目が、全国の自治体や研究機関が作る「開発酵母」。福島県の「うつくしま夢酵母」や、秋田県の「秋田流花酵母AK-L」、長野県の「長野アルプス酵母」など、それぞれの土地の風土に適った酵母が次々と開発されている。三つ目が、花からの贈り物とも言うべき「花酵母」。ナデシコ、シャクナゲ、ヒマワリ、イチゴ、カトレアなどの花々から分離され、それぞれが個性豊かな香味を醸し出している。

これらの様々な酵母が、蔵ごとの日本酒の香りや味わいを支えているのだ。

 

日本酒の味と香りの傾向を知るには酵母の特性を知るのが早道

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ワインはぶどうの品種が味と香りをほぼ左右するため、例えばリースリングはアロマティックで繊細、ヴィオニエなら華やかな香りとトロトロの果実味といった風に、ぶどうの知識を抑えるのがワイン通を気取る早道である。それに対して日本酒の場合、原料米の情報だけで酒の味を事前にきき当てるのは、手練れの唎酒師でもたやすくはない。まして仕込水の硬度や杜氏の腕一つで味は大きく左右されるため、同じ山田錦で仕込んだ酒でも味は千差万別、振り幅は相当に広い。

 

しかし、各酵母の特徴を抑えておくと、味と香りの傾向をある程度予想することはできる。例えば協会系酵母なら、9号は華やかな吟醸香が特徴で、協会14号は9号より香りが穏やかで食中酒に向く。また山形酵母、うつくしま夢酵母は香り高く味わいがマイルド、アルプス酵母はデリシャスリンゴの香り、静岡酵母はメロンの香り、そして花酵母はまさにそれぞれの花の香りがベースとなっている。こうして雑学レベルで知っておくだけで、日本酒の楽しみ方が一段と広がるので、ぜひ参考にしていただければと思う。

 

 

花酵母の他にも、赤色清酒酵母やワイン酵母などを使って、固定観念に縛られない新たな日本酒造りに挑む酒蔵が増えている。その一方で、清酒酵母からアミノ酸などの美肌エキスを抽出し美容液として商品化した酒蔵もある。さらに医学界では、清酒酵母が持つ抗うつ効果や、アルコール性肝炎の顕著な治癒効果に注目が集まっている。

「発酵の母」である酵母は、お米から香りを引き出すだけでなく、日本酒そのものが持つ無限の可能性をも引き出す鍵を握っているのかも知れない。

 

参考サイト:

KURAND

https://kurand.jp/blog/sake-kobo/

https://kurand.jp/28965/

たのしいお酒.jp
https://tanoshiiosake.jp/2508

東京農大花酵母研究会

http://www.hanakoubo.jp/about/index.html

第一酵母株式会社
https://www.daiichikobo.com/hpgen/HPB/entries/97.html

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