“山田錦”、“五百万石”、“雄町”……。酒造好適米の品種によって酒の味はどう違う?

 

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お米を原料に使って醸造する日本酒は、ワインほどの歴然とした差はないものの、やはり原料の品種によってベースとなる酒の味に個性の違いが生じる。日本には現在100種類を超える酒造好適米(酒造りに適したお米)が作られているが、その中でも特にメジャーな品種に絞って、それぞれの特徴と味の違いをご紹介したい。

 

生産量の約75%を占める上位3品種

農林水産省が実施している醸造用玄米検査の数量データによると、“山田錦(約40%)”、“五百万石(約27%)”、“美山錦(約8%)”の上位3品種だけで酒造好適米の全生産量の約75%を占めており、その後はいずれも2%から1%台以下の品種が続いている。まずは上位3品種について詳しく見てみよう。


◆自他ともに認める酒造好適米の王者 ―“山田錦”
昭和11年(1936)に兵庫県農事試験場で開発され、現在は約30の府県で栽培されている酒造好適米の王者。今でも兵庫県産が60%以上を占め、中でも土壌と気象条件が揃った三木市や加東市、西脇市方面の特定エリアは、最も良質なものが獲れる特A地区に認定されている。他の品種に比べて長稈(茎が長い)でやや太いが、しなりやすくて倒伏しやすい。丈夫な稲穂に育てるには、田起こしする際にミネラルを混和させる必要がある他、心白を出やすくするために砕石(ゼオライト)を土壌に混合させたり、苗の間隔を通常の2倍とって日当たりと通気性を良くするなど、育成に手間暇を要する。タンパク質が少ないため雑味が少なく、全体的にすっきりとした中にコクのある酒質に仕上がる。また香味が良いため大吟醸クラスの酒を造るには申し分なく、近頃大人気の銘柄『獺祭』をはじめ、山田錦しか使わないという蔵も全国に少なくない。


◆酒どころ新潟生まれの東の横綱 ―“五百万石”
西の横綱が“山田錦”なら、東の横綱は主に新潟を主産地とする五百万石である。新潟の気候風土に合うように作られたお米で、その名も昭和32年(1957)、新潟県の米の生産量が五百万石を突破したことを記念して付けられている。吸水性はやや低いものの、蒸米にした場合に適度な硬縮性があり、機械での麹米作りに適しているため需要が増加している。米の粒が小さいため高精米には不向きだが、すっきりと軽快でキレのある飲み口に仕上がることが多く、口当たりも優しい。まさに淡麗辛口の、新潟の酒のイメージそのものである。


◆雪のような心白を持つ突然変異種 ー“美山錦”
昭和53年(1978)に長野県農事試験場で、突然変異によって誕生した品種。北アルプスの山頂を染める雪のような心白があることから、この美しい名が付けられた。耐冷性に優れ寒冷地でも栽培ができるため、秋田、山形、岩手など東北地方でも多く生産されている。米質が硬くて醸造の際に溶けにくいため、雑味が少なく米の風味がしっかりと感じられやすい。そして香味は控え目で、全体的にきれいですっきりとした軽快な味わいに仕上がることが多い。

 

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絶滅寸前から復活した通好みの人気品種

◆熱烈なファンも多い「酒米の母」―“雄町”
安政6年(1959)に発見された日本最古の純血種の酒米。「酒米の母」とも言える存在で、“山田錦”をはじめとする酒造好適米の6割以上が、雄町を親にした品種改良から誕生している。そのため、上位3種と合わせて「四大酒米」と総称されることも多い。
稈長が高くて倒伏しやすく、また病虫害にも弱いため、絶滅の危機に瀕し「幻の米」と呼ばれた時期もあった。全生産量の9割以上が岡山で作られている。雄町米で造られた酒は、ふくよかな旨味と深いコク、絶妙な甘味と酸味のバランスが特徴で、そのコクのある味わいに惚れ込み自らを「オマチスト」と呼ぶファンもいるほど。

◆『夏子の酒』で一躍有名に ―“亀の尾”
明治26年(1893)に山形県で発見、育成された米。食用、酒造用の両方で高く評価され、「不世出の名品種」と謳われた。“ササニシキ”、“コシヒカリ”など多くの食用米の祖先でもある。病害虫に弱く倒伏しやすいため一時は絶滅の危機に瀕したが、漫画『夏子の酒』で物語の鍵を握る伝説の米“龍錦”のモデルになったこともあって、再び人気を集めている。酒としては奥行きがあって力強い、しっかりとした味わいに仕上がるのが特徴である。

 

主な酒造好適米の特徴と個性について知っておくだけで、日本酒の楽しみ方は大きく広がってくる。今回の記事を参考に、お米の品種と味の違いについてご自身の舌で確かめてみてはどうだろう。

参考文献:
『新訂 唎酒師必携』(1999年初版)

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