似ているようで別物! イネに病気をもたらす菌類・細菌・ウイルスって何が違うの?

イネのかかる病気は実に多様で、30〜40種類ほど存在するといわれている。イネの健やかな成長を妨げる病気の原因のほとんどは、菌類や細菌、ウイルスだ。肉眼では分かりにくく、『菌』や『微生物』などとひとまとめにされがちであるが、菌類、細菌、ウイルスは全く違う生き物である。ウイルスに至っては生物ですらない。それぞれにどんな特徴があり、どんな病気を引き起こすのかを改めて見直してみよう。

 

菌類:ヒトと同じ真核生物。『糸状菌』や『カビ』などとよばれる

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イネの病気の中でも特によく名前を聞く『いもち病』。過去から現在に至るまで多くの稲作農家を悩ませてきたこの病気は、イネいもち病菌という『菌類』が原因となる。病気の発生した場所によって、葉いもちや穂いもちなどとよび分けられるが、いずれも原因は同じ種類の菌だ。分類学上、菌類はさらに接合菌、担子菌、子嚢菌などのグループに分けられる。

菌類はその成長過程で大きく形態を変化させる。細胞が糸のようにつながった状態の菌類は『糸状菌』というが、一般的には『カビ』とよばれることも少なくない。ちなみに、同じ菌類でも目に見えて大きなサイズの、胞子を出す構造物(子実体)をつくるものはキノコとよばれる。

 

niteiruyoude2※写真はイメージ

菌類によるイネの病気は多い。『ばか苗病』や『イネ紋枯病』、『稲こうじ病』など比較的よく聞く病名があげられる。イネへの菌類感染が起きやすくなるのは、なんといっても高温多湿という環境だ。カビが生えやすい条件、と考えればよく分かるだろう。また、菌類は胞子をまき散らして繁殖するので、被害も広範囲になりがちである。菌類に対する薬剤はたくさん販売されているが、特定の種やグループにだけ効果を発揮するものが少なくないため、防除の対象となる菌をきちんと把握して選ばなくてはいけない。

 

細菌:細胞の小さな原核生物。細胞分裂で増殖する

『イネもみ枯細菌病』や『イネ苗立枯細菌病』は、病名にもある通り『細菌』が原因となる病気だ。細菌と菌類は名前が似ていて混同されがちだが、決して同一視してはいけない。菌類の細胞には、染色体が収納されている核が存在する。これは私たち人間の細胞も同様で、核のある細胞からなる生物はまとめて真核生物と呼ばれている。一方、細胞中にはっきりとした核をもたない生物は原核生物とよばれ、真核生物よりも原始的な生き物と考えられている。細菌は原核生物であり、菌類とは細胞の構造から根本的に異なる生物なのだ。

また、真核生物である菌類のほとんどが多細胞生物(キノコやカビは言わずもがな)なのに対し、原核生物は基本的に単細胞生物であり、細胞1つの大きさも真核生物のものよりずっと小さい(1〜2μm)。

niteiruyoude3※写真はイメージ

細菌の増殖方法は細胞分裂だ。栄養さえあれば分裂でどんどんと数を増やしていく。種子や土壌が細菌に感染していると、知らず知らずのうちに天文学的な数まで増殖してしまう。安全性が確認できない土や水などは使わず、種子は殺菌してから使用することで、細菌による病気をある程度防ぐことができる。

細菌に含まれる変わり者に『ファイトプラズマ』がいる。ファイトプラズマは植物に寄生して生きる細菌の1種だが、細菌にあるはずの細胞壁をもたず、寄生した細胞を利用しないと増殖することもできない。単独での培養ができないことから研究が遅れていたが、近年の分析技術の発達によってようやく生態や感染メカニズムが分かってきた。イネの株が黄色くなり萎縮する『イネ黄萎病』は、このファイトプラズマによるものだ。ファイトプラズマ自体への特効薬や防除方法は見つかっていないが、この細菌は感染時に必ず昆虫を媒介とする。イネの場合はツマグロヨコバイがその役割を果たすので、感染を防ぐにはまずツマグロヨコバイの防除を確実に行うことが重要になる。

 

ウイルス:生物ではない? 媒介となる昆虫・土壌微生物に注意

最期に、『ウイルス』である。冒頭でも述べたように、ウイルスは生物ではない。生物を生物たらしめる特徴の1つに、『細胞膜で包まれた細胞によって成り立つ』というものがあるが、ウイルスは細胞ではなく、タンパク質の殻のなかに遺伝物質(DNAやRNA)が収納されているだけの構造をしている。そのため『細胞でできていない=生物ではない』とみなされることが多いのだ。

サイズは細菌よりさらに小さく、細菌を殺すための抗生物質も、生命としてのメカニズムが根元から異なるウイルスには効かない。ウイルスによるイネの病気で代表的なものには『イネ縞葉枯病』などがある。ウイルスによる病気の防除も、やはり媒介となる昆虫や土壌微生物を駆除することが中心になる。

 

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2010年には、それまで日本国内で発見例がなかった『イネ南方黒すじ萎縮病』が報告された。これはセジロウンカが媒介するウイルスが引き起こす病気で、2008年頃からセジロウンカの飛来源である中国南部からベトナム北部にかけて報告されていた。ウンカの飛来によって、日本へ新たにもたらされるようになったウイルス性の病気だ。このような、日本で未確認だった病気の進出は、今後の急激な気候変動とともに増えていくと考えられている。

菌類、細菌、ウイルス。似ているようで全く異なる生き物たちが、イネの病気を引き起こすことがお分かりいただけただろうか? 原因となる生き物によって繁殖の特性や防除方法が違うことを念頭に置き、病気に対する対策を確実に練ろう。

 

参考文献:

水稲の本田防除 いまが重要な防除時期(一般社団法人農協協会)

https://www.jacom.or.jp/nouyaku/rensai/2015/06/150610-27308.php

 

文:小野塚 游(オノヅカ ユウ)
“コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

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