お米の生育を左右する『リン酸』のあれこれ。可給態リン酸やリン酸吸収係数とは?

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本サイトではこれまで、イネの生育に必要な元素や栄養素、栽培指針の決定時に大きな助けとなる土壌分析の項目などについてご紹介してきた。今回は植物にとっての主要栄養素の一つ、リン酸をピックアップしたい。イネにとっても必要不可欠なリン酸のはたらきや、土壌中のリン酸の測定法などについてみていこう。

 

植物の三大栄養素『窒素・リン酸・カリ』

 

『窒素・リン酸・カリ(NPK)』。農家でない人であっても、園芸や野菜作りに興味があれば一度は聞いたことがあるはずだ。植物の生育に少なからず必要になるこの3つの要素は、『三大栄養素』などといわれ、育てる植物の種類によって十分な量を与える必要がある。ホームセンターなどでも、この三つの栄養素のバランスを記載した肥料が販売されている。

窒素は葉や茎によく効き、植物のからだを大きくするため、『葉肥え(はごえ)』とよばれることがある。それに対し、実や花をつける際に重要な役割を果たすリン酸は『実肥(みごえ)・花肥(はなごえ)』、カリ=カリウムは根の発育を促す『根肥(ねごえ)』だ。

今回は、この三大栄養素の一つ「リン酸」に着目してみよう。イネの栽培においてもこの栄養素は不可欠だ。野菜の栽培で実の生長を左右するリン酸は、イネにとってはお米の生長を左右することになる。さらに、リン酸の施肥は茎や根にも良い影響を与えるため、リン酸の不足はなるべく避けたいところだ。リン酸の含まれた元肥を使用するほか、リン酸を含む肥料の追肥など、農家によって取り組み方は異なるであろうが、ほとんどの米農家は一年を通じてリン酸施肥の計画を立てているだろう。

日本国内では土壌管理の行き届いた田んぼがほとんどになり、リン酸欠乏のイネは(長期間の無施肥などを行わない限り)見られなくなったが、海外では土壌にリン酸が少ないためにイネの収量が上がらず困っている土地もある。そういった、リン酸の少ない土地でも収量を維持できる品種を開発する手がかりとして、2012年に(独)国際農林水産業研究センターをはじめとする研究グループがイネの『リン欠乏症耐性遺伝子』を発見している(参考文献2)

 

土壌に施肥したリン酸は、一部しか使われない

 

作物に与えれば良いことづくめのように思えるリン酸だが、実は土壌にまいたリン酸は、全量のうちのごく一部しか植物体に利用されない。土壌にはリン酸を吸着・固定する性質があり、これを『リン酸の土壌固定』という。土壌中のアルミニウムや鉄とリン酸が結合することで水に溶けにくい物質になってしまったり、微生物がリン酸を取り込んでしまうことによる。最終的に土壌固定されなかったリン酸が、イネや作物に利用されるのだ。このような、土壌中の植物が利用できるリン酸の量は『可給態リン酸(もしくは有効態リン酸)』とよばれる。

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また、土壌がどれくらいのリン酸を固定するかを表す数値には『リン酸吸収係数』というものがある。いずれも、土壌分析をおこなうことで具体的な数値を得ることができるので、リン酸施肥に対するイネの変化が見られないようなときには分析を依頼してみると良いだろう。いくらリン酸を与えてもイネに効果が表れないのは、リン酸吸収係数の大きい土壌であるためかもしれない。または、可給態リン酸が十分にあるため、せっかくのリン酸が使われずに流れてしまっているのかもしれない。目に見えない状況を適切に判断するための手がかりとして、ぜひ土壌分析を活用してほしい。

 

『リン酸肥料のゆくえ』を考えよう

 

私たちが農業に利用しているリン酸は、世界でも限られた場所からしか採れない鉱物が原料となっている。他の栄養素では代用することができないリン酸は、世界中の農家に必要とされている。肥料に使われるためのリン酸をつくるため毎年大量のリン鉱石が採掘されており、このままいくといずれ枯渇する恐れも出てきているという(参考資料3)。さらに、植物は種子などにリン酸を蓄積するが、私たち人間はこの蓄積されたリン酸(フィチン酸という形で蓄積)の大部分を吸収・分解することができない。植物の種子(お米もふくむ)にとっては、生長のための貴重な栄養源のリン酸だが、それを食べた我々にとってはほとんど栄養になりえないのである。食事で体内に吸収されなかったリン酸は、そのまま排泄される。このリン酸をたっぷり含んだ排せつ物が水に流されると、最終的にリン酸によって富栄養化した水が河川や海へ流入する。つまり、水質汚濁・環境汚染につながる可能性があるのだ。

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リン酸を含む肥料を過剰に使いすぎないようにすることは、経費面でも負担が軽くなるだけでなく、環境にやさしい農業、地球に配慮した農業を営むことにつながる。自分の田んぼや畑に適した、過不足のないリン酸の量を知るためにも、ぜひ土壌分析の力を利用してほしい。

 

参考資料:

http://www.reigai.affrc.go.jp/zusetu/water/soilphos.html

2.http://www.tsukuba-sci.com/cms/?p=16315

3.黒田章夫,滝口昇,加藤純一,大竹久雄. 2005. リン酸資源枯渇の危機予測とそれに対応したリン有効利用技術開発. 環境バイオテクノロジー学会誌. 4, 87-94

 

文:小野塚 游(オノヅカ ユウ)
“コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

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