需要増加中の酒造適合米! ゲノム関連の研究はどうなっている?

バイオテクノロジーの進化はイネの品種改良をどんどんと推し進めている。移り行く環境や、消費者の嗜好の変遷に合わせるように栽培イネも変化してきたが、バイテクやゲノムに関する研究が変化をもたらしているのは、飯米だけではない。日本の誇る日本酒、それに使われる酒造好適米(以下、酒米)の研究もまた、各地で行われているのだ。本サイトでも酒米や酒に関する記事を多数紹介しているが、今回は酒米のゲノムに関連する研究をご紹介したい。

 

酒米のゲノムも解読されている

イネのゲノムを解読する『イネゲノムプロジェクト』が完了したのは2004年だ。このゲノムプロジェクトでは多くの水稲品種のルーツとなっている“日本晴”が材料となった。ゲノム解読までの過程やその意味、重要性は以前の記事で上梓した通りである。実は酒米でも2011年にある1品種について全ゲノムの解読が行われ、“日本晴”との比較が行われている。その品種とは、幻の酒米ともいわれる“雄町”だ。

sakamaikenkyu1※写真はイメージ

“雄町”は江戸時代から岡山県で栽培されている大粒の酒米である。1859年、備前国上道郡高島村雄町の岸本甚造によって見いだされた、2本の穂から栽培がはじまった。酒米として非常に優れた性質を示し、大粒で心白が大きく、“雄町”を使った酒は非常に芳醇な味わいになる。後年にはうわさを聞き付けた多くの人が“雄町”の種を求め、昭和初期には『最高の酒を造るには“雄町”を使う』というくらい、評価の高い酒米であった。

しかしながら、“雄町”は草丈が人の背丈よりも高い1.6mほどになるため風に弱く、また病虫害への抵抗性も低い。栽培の難しさから作付面積は減少の一途をたどり、一時は消滅寸前にまで追い詰められたが、後年その味の良さに酒蔵メーカーなどが着目。少しずつ栽培面積を復活させ、再び酒米として脚光を浴びている。

 

“雄町”のゲノムを飯米と比較すると…?

実は、現在栽培されている酒米の大多数はこの“雄町”を先祖にもつといわれている。酒米としての優秀さから、“雄町”を元として多くの品種がつくられたのだ。“山田錦”や“五百万石”といった有名品種も、“雄町”を先祖としている。“雄町”のゲノムを解読するということは、優秀な酒米に必要な遺伝子を見つけるのに役立つだけでなく、それを基盤として“雄町”と血のつながった多くの酒米品種の研究に応用できる可能性をもつ。

“雄町”のゲノム解読は、東京農業大学と独立行政法人農業生物資源研究所の共同研究で行われた。1997年から国際プロジェクトが本格化した“日本晴”のゲノム解読では、その前段階のプロジェクトを含めて10年近くが必要だったが、“雄町”のゲノムの際には分析機器などが発達していることから、より短い期間での解読ができたという。

sakamaikenkyu2▲塩基配列を決定する際に使われる機械の一例

 

解読された“雄町”のゲノムを“日本晴”と比較した結果、全塩基配列のうちの約16万箇所で何らかの違い(変異)があることが分かった。16万の変異のすべてが飯米と酒米の違いに反映されるわけではないが、この情報は酒米に適した遺伝子を調べる研究に大いに役立つ。

 

飯米と酒米の多様性から生まれる研究

さらに、2016年には神戸大学を中心とした研究グループが酒米86品種を含む日本の水稲176種について、ゲノムワイド関連分析(Genome-wide Association Study:GWAS)という手法による分析を成功させた。各品種の全塩基配列を決定し、多数の品種間で横断的に比較することで、形質の違いをもたらしている遺伝子を探し出す研究だ。この結果、農業上重要と考えらえる4つの遺伝子が新たに見つかった。4つの遺伝子はそれぞれ、『開花日を決定する遺伝子』、『穂の数、籾の数、葉の幅に影響する遺伝子』、『芒の長さに影響する遺伝子』、『開花日、草丈、穂の長さに影響する遺伝子』である。いずれも、新品種の開発に大きく関わりそうな遺伝子だ。

ゲノムワイド関連分析では、複数の品種や個体間でゲノムを比較することで、形質に影響を及ぼす遺伝子を探す。日本には特に多くの水稲品種が存在することや、栽培データの整理されたコレクションがあったことがこの研究を成功させた。飯米だけでなく、酒米の多様性もあったからこそ、イネの遺伝子研究が1歩進んだと言ってよいだろう。

sakamaikenkyu3

 

飯米同様、酒米の品種改良でもゲノム情報に基づいた開発が進んでいる。日本のみならず世界の人々の食生活を支える飯米に比べると酒米に関する研究は多くないが、近年の日本酒ブームや気候変動の観点からも、その必要性は年々増す一方だ。酒米からもたらされる研究結果は、これからさらに注目されていくことだろう。

 

参考資料:

全国農業協同組合連合会 岡山県本部

http://home.oy.zennoh.or.jp/omachi/index.htm

Discovery of genome-wide DNA polymorphisms in a landrace cultivar of Japonica rice by whole-genome sequencing.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21258067

東京農業大学「日本型イネ品種「雄町」の全ゲノム解読」

http://www.nodai.ac.jp/hojin/press/images/20110202.pdf

酒米品種群の成り立ちとその遺伝的背景

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan/107/10/107_710/_pdf

神戸大学「イネの品種改良につながる4つの新たな遺伝子を発見」

http://www.kobe-u.ac.jp/NEWS/research/2016_06_21_01.html

 

文:小野塚 游(オノヅカ ユウ)

“コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

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