“秋田酒こまち”、“越淡麗”、“吟風”……。“山田錦”超えを狙う酒造好適米の新世代

 

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“コシヒカリ”が長年王者として君臨してきた食用米の世界では、近年になって“ゆめぴりか”、“つや姫”、“さがびより”など新たなブランド米が続々と登場。徐々にシェアを伸ばし始めている。そして酒造用のお米の世界でも、同じようなムーブメントが水面下で広がっているのをご存知だろうか。

 

各地に広がってきた「地元の酒は地元のお米で」の思い

酒米の世界で“コシヒカリ”に相当する王者と言えば、“山田錦”である。かつて酒造業界では、YK35というキーワードがもてはやされていた。YK35とは、「山田錦(Y)を35%まで精米し協会9号酵母(K)*で造った酒」のこと。このスペックこそが、新酒鑑評会で金賞を獲るための「勝利の方程式」とされていたのだ。

しかし同じスペックで造られた金賞受賞酒が、結果的にどれも似たような味と香りに収斂していく中、「多様化の時代に、日本酒はこれでいいのか?」「地元の酒は地元のお米で造るべきではないか」という声が、全国の意欲的な蔵元の間で高まり始めた。やがてこうした想いが実を結び、各地の気候風土に合った新種の酒造好適米が、地元の酒造組合と農事試験場の協力の下で続々と開発されていくのである。

*協会9号酵母: 酸が少なく香りが高いため吟醸造りに最適。かつて鑑評会出品酒に最も多く用いられていた。別名「熊本酵母」「香露酵母」。

 


酒米も群雄割拠の時代へ。下克上を目指す新品種の数々

日本酒造りに使われるお米は現在約150品種以上もあるが、その3分の1に当たる50品種がこの20年程の間に誕生している。これらの新しい酒造好適米の中から、特に勢いのある比較的新しい品種をいくつかご紹介することにしよう。

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◆人気・実力ともに赤丸急上昇 ―“秋田酒こまち”
秋田県農業試験場が15年の歳月をかけて作り上げた、秋田オリジナルの酒造好適米。2016年には、四大酒米の一つ“雄町”を抜いて堂々生産量第4位に躍り出ている。
大粒で高精白が可能なため、吟醸酒用に最適。“山田錦”よりもデンプンの消化性が高く(溶けやすい)、かつタンパク質(雑味のもと)が少ないので、香り高く上品な旨さを持ちながらも軽快な後味の酒に仕上がるのが特徴。

 


◆「吟醸王国」山形のエース米 ―“出羽燦々(でわさんさん)”
山形県で開発された生産量第6位の酒造好適米。山形には日本百名山の鳥海山をはじめ、1000m以上の山々が33あることにちなんで命名された。
優れた耐冷性と耐倒伏性を備えた大粒で水を吸いやすい軟質のお米で、柔らかくてキレがあり、さらりとした淡麗な飲み口に仕上がるのが特徴。
山形県では①出羽燦々100%使用 ②山形酵母使用 ③県が開発した麹菌オリーゼ山形使用 ④純米吟醸酒 ⑤精米歩合55%以下 の5条件を満たす県産酒に、「純正山形酒DEWA33」のブランドを公認する制度を導入する程、このお米の普及に力を入れている。

 


◆東西の横綱の血を引くサラブレッド ―“越淡麗(こしたんれい)”
酒米界の西の横綱“山田錦”と東の横綱“五百万石”を掛け合わせた、新潟生まれのサラブレッド。「お米どころの新潟が他県の“山田錦”に頼ったままでいいのか」という想いの下、県の醸造試験場、清酒組合、農業総合研究所作物研究センターの三者が協力し、15年の研究期間を経て2004年に誕生した。
酒米界のツートップの特性を引き継いだことで、濃醇な味わいと淡麗さをバランス良く兼ね備えた、柔らかくて膨らみのある酒に仕上がるのが特徴。

 

 

◆北の大地に育まれた三大銘柄 ―“吟風(ぎんぷう)”、“彗星”、“きたしずく”
北海道は新潟に次ぐ生産量国内第2位の食用米の産地であるにも関わらず、既存の酒造好適米が育たず、吟醸酒造りには本州産を使うほかなかった。しかし2000年前後から道内産品種の開発が進み、現在は次の3銘柄が生産されている。
“吟風”は、心白が大きく稲熱病に耐性のある品種。金賞受賞酒も誕生するなど品質向上が進んだため、近年では道外での需要も大いに高まっている。濃醇で甘味のあるまろやかな味に仕上がるのが特徴。“彗星”は、千粒重(形の整った玄米1000粒当たりの重さ)が重く、大粒で収量性の高い品種。タンパク質含有量が低いため雑味のない淡麗辛口の酒に仕上がるのが特徴。最も新しい“きたしずく”は、心白発現が良く、耐冷性の高い多収の品種。ちょうど“吟風”と“彗星”の間に位置するような味と香りに仕上がるのが特徴。

 

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上記以外にも、生産量ベストテンの常連となった長野の“ひとごこち”や、福島の“夢の香”、岩手の“吟ぎんが”など、「地元のお米で地元の酒を」という想いに応えた優良品種が各地で開発され、今日も“山田錦”超えを目標に品種改良が進められている。土地毎の地酒を楽しまれる際は、ぜひ酒瓶の裏ラベルに書かれた原料米にも着目した上で、それぞれの地域の個性を味わっていただければと思う。

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