土壌の肥沃さの目安、『CEC』とは?

田んぼや畑の土壌分析は、より良い作物栽培を行うための強力なツールとなる。しかしながら、得られた結果の意味やそれが示すものが理解できなければ、土壌分析は無用の長物だ。今回は、土壌分析で測定される『CEC』について解説したい。大雑把に言うと、CECは「その土壌がどれだけ陽イオンを吸着・保持できるか」を表す値だ。

 

CECを理解するには、まず化学の復習を……

『CEC』はCation Exchange Capacityの頭文字をとった言葉で、日本語では『陽イオン交換容量』もしくは『塩基置換容量』とよばれる。『陽イオン』や『塩基』というものがわからない、という人は、中学校・高校の理科(化学)をぜひ復習していただきたい。イオンとは、それぞれの原子(もしくは複数の原子からなる原子団)が、もっている電子を放出する、もしくは電子を受け取ることで電気を帯びた状態になった粒子である。電子はマイナス(―)の電気を帯びているため、もともともっていた電子を放出してしまった原子は電気的にプラス(+)に傾き、『陽イオン』となる。一方、電子を受け取って、それまでよりも電気的にマイナスに偏った状態になったものは『陰イオン』だ。

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さて、本サイトでは以前、窒素・リン酸・カリ以外にも植物の生育に重要な役割を果たす微量必須元素として、カルシウムやマグネシウムを紹介した。これらの元素は、水に溶けるとカルシウムイオン(Ca2+)やマグネシウムイオン(Mg+)の状態で存在することになる。多量必須元素であるカリウムも同様にカリウムイオン(K+)となり、窒素の多くはアンモニウムイオン(NH4+)として、やはり陽イオンで存在する。施肥によってカルシウムやマグネシウム、カリウム、窒素を田んぼに供給することは、これらの陽イオンを土壌中に増やすことと同義なのだ。ちなみに、これらの植物にとって有用な陽イオンは土壌学で『塩基』とよばれることもある。

 

植物に有用な陽イオンを捕まえるのは土壌コロイド

土壌に植物の栄養となりうる陽イオンが増えたとしても、それが植物に吸収される前に水で流されては意味がない。土の中ではどのようにして陽イオンが保持されているのだろうか? その役割を果たしているのが『土壌コロイド』である。

土壌中には、粘土鉱物と腐植が結びついてできた土壌コロイドという粒子が存在する。この土壌コロイドは、その表面にマイナスの電気を帯びているという化学的性質がある。プラスの電気を帯びた陽イオンは土壌コロイドに近づくと、その表面にぴたりとくっついてしまうのだ。子どもがよく下敷きで髪の毛をこすり、静電気を起こして髪を下敷きにくっつける遊びをするが、それと同じようなことが土壌コロイドと陽イオンのあいだでも起こっている。

 

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土壌分析で提示されるCECとはすなわち、土壌コロイドがどれだけ植物にとって有用な陽イオンを吸着できるかという数値である。一般的に、CECの値が大きい土壌は肥沃であるといわれる。いくら肥料を与えても、CECの値が小さな土壌ではすぐに雨水で流されてしまう。逆に、CECの大きな値を検出するような土壌は、必須元素を保持できるキャパシティがある、良い土というわけだ。CECはその土壌に含まれている粘土の種類や腐植の量などによって変化する。

なお、CECの単位は長年、『meq/100g』が使われていたが、近年は国際的な単位の基準に合致させるため『cmol(+)/kg』を用いるのが推奨されている。

 

CECと『塩基飽和度』『pH』の関係

その土壌が保持できる陽イオンの量(CEC)に対して、どれだけの陽イオンがすでに土壌コロイドに吸着されているかを示す値が『塩基飽和度』である。ごく簡単に例えると、「10個の陽イオンを吸着できる土壌コロイドに7個の陽イオンが吸着済みであれば、塩基飽和度は70%」というような値だ。塩基飽和度の小さな土壌であれば、施肥が効果を発揮する可能性は十分ある。その一方で、すでに塩基飽和度が高くなっているような場所では、それ以上施肥をおこなっても土壌コロイドが吸着できず、水に流されるだけになってしまう可能性が高い。

なお、土壌コロイドの吸着した陽イオンは植物の根から吸収されるが、この時、土壌コロイドから離れた植物に有用な陽イオンの代わりに、水素イオン(H+)が土壌コロイドに吸着される。

 

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有用な陽イオンを植物に吸収されてしまった土壌コロイドには水素イオンがたくさん吸着されている。逆に、土壌コロイドに(水素イオンを除く)陽イオンがたくさん吸着している場合には、土壌コロイドの周りに水素イオンが多く残存している。このため、塩基飽和度が高い土壌ほど、pHも高くなる傾向がある。

 

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ハウス栽培の土壌などでは当てはまらないことも多いといわれるが、比較的簡単に測定できるpHの値を目安に、土壌コロイドの状態を考えるのも良いだろう。

最後に、国が推奨する水田のCEC値を紹介したい。農林水産省が平成20年に発表した地力増進基本指針では、水田のCECは、灰色低地土、グライ土、黄色土、褐色低地土、グライ台地土、褐色森林土で『12meq以上/100g(ただし、中粗粒質の土壌では8meq以上)』、多湿黒ボク土、泥炭土、黒泥土、黒ボクグライ土、黒ボク土で『15meq以上/100g』と言及されている。分析結果運用の参考にされたい。 

 

 

 

●本サイトでご紹介してきた必須元素記事

・成長や食味に好影響! マグネシウム(苦土)とイネの関係

https://rice-assoc.jp/for-famer/32-cultivation/193-2019-04-09-05-27-21.html

・カルシウムが植物に与える影響と、稲作におけるカルシウム
https://rice-assoc.jp/for-famer/32-cultivation/198-2019-04-23-03-18-02.html

 

参考資料:

1.「地力増進基本指針」農林水産省(平成20年)

http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_dozyo/pdf/chi4.pdf

 

文:小野塚 游(オノヅカ ユウ)

“コシヒカリ”の名産地・魚沼地方の出身。実家では稲作をしており、お米に対する想いも強い。大学時代は分子生物学、系統分類学方面を専攻。科学的視点からのイネの記事などを執筆中。

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